妄想

4月13日

誓「新学期早々自宅待機とかついてないな〜、本当に

最初は休みにはしゃいでたけど、やる事なくてすっげー暇だし」

4月10日、狂人が閉鎖病棟にいた患者を皆殺しにして、そこから脱走した。普通なら警察が必死に奴の消息を掴むはずだが、どういう訳か彼らは動かないため、まだ奴は野放しにされている。その為、新学期が始まったばかりだというのに、周辺の学校の生徒は自宅待機ということになった。

誓「これでセンターに支障が出たらどう責任取るんだって話だよ……、早く捕まってくれないかな……」

ピンポーン

インターホンが鳴る。まさか友人ではないだろうな、と思い受話器を取った。

「助けて!」

悲痛な叫び。子供の声のようだ。俺は何も考えず玄関へ走り、ドアを開けた。

そこにはツインテールの小さな少女がいた。

少女「匿って、何かに追われてるの……!」

誓「そうか、とりあえず入れ!」

俺はその子の手を掴もうとした。

しかし、その手が掴んだのは虚空だった。

誓「!? どういう事だ……?」

何が起こったかよく分からなかったが、とりあえずその子を家に入れ、家の鍵をかけた。

しばらくその子は何かに怯えていたが、やがて落ち着くと、

少女「助けてくれてありがとう。あの……、ボクのこと、触れなかったでしょ……?」

誓「あ、ああ……君は、幽霊なのか?」

少女「違うよ。……ボクが今から言うことはとても信じられないと思うけど、それは夢でも幻でもない」

誓「?」

エスツェット「ボクはエスツェット。誰かの妄想から生まれた存在だ」

誓「何だって! 俺は狂ってしまったのか?」

エスツェット「違う。この世界はキミが知らないうちに妄想が現実へと変貌するようになったんだ」

誓「それは大変だ」

エスツェット「冗談だと思ってるでしょ? でもそうじゃないんだ。

試しに何か、妄想をしてみて。ほら、剣が地面に刺さってるとか……」

俺は言われた通りの妄想をしてみた。

すると、目の前に床に刺さった剣があった。

誓「どうなってるんだ……?」

エスツェット「その剣を抜いてみて」

俺は剣を床から抜いた。結構重い。床にあるはずの穴はいつの間にか消えていた。

エスツェット「それはキミの妄想の産物。現実の人間だと生み出したキミにしか触れない。

でも、ボクは妄想の存在だから……」

彼女は俺から剣を取り、そして振ってみせた。

エスツェット「こうして扱うことができる」

誓「夢じゃ、ないんだな……」

エスツェット「うん。そして、この妄想は創造主の意思か、妄想の働きかけによってしか消せない。もし妄想が襲いかかってきたときは、逃げるか、妄想で打ち消すかだ」

誓「この剣を消したいと思えば消すことができるんだな……。よかった、銃刀法違反にならなくて」

俺は剣を消した。それまで剣があった場所にはもう何もない。

誓「ところで、君はなぜ追われていたんだ?」

エスツェット「ボクにも分からない。ボクは誰によって、何の目的で生み出されたのか……それさえも。分かるのは、自分の名前と妄想についての知識だけ」