ゲッシュとタコ
俺は伊藤突貫。ごく普通の人間だ。
俺に課せられたゲッシュは「タコを食べてはいけない」と「他人のものを奪取してはいけない」、「友人の誘いを断ってはいけない」だ。
破れば当然死ぬ。
しかし今目の前ではタコパが行われている。
恐らく俺は今日かのクー・フーリンのように板挟みゲッシュになって死ぬのだ。
友人にはタコは苦手だと伝えてあるが、今焼かれているタコ焼きのどれがタコ抜きか分からないのだ。
命の危機なのに目を離していた己を恥じるべきだが、過ぎたことはどうしようもない。
俺はこのフェーズはタコ焼きを食べないことにして難を逃れることにした。
「食わんのか?」
友人の猪狩翼が俺に話しかける。
「タコは苦手やけん」
「折角のタコパや、食え! そしたら克服できるかもしれんやろ」
これは誘いか? ならば断れば死あるのみ。
「しゃーないな」
俺はシュレディンガーのタコ焼きを口に運んだ。何か入っている。これは…チョコレート!?
「チョコ入っとる!! なんや!!」
俺は思わず叫んだ。
「あーそういやロシアンルーレット的精神でいろいろ入れたんだった」
今まで無言でタコ焼きを作り続けてきた奉行友人、小樽智が言葉を発した。
これはいける!!
タコではなくてデスソースとかの類で済むかもしれない!
喜んでふと上を見上げると足が3本しかないタコがいた。
「タコ!?」
その声に翼が反応する。
「どしたん、上見上げて……タコがおるな」
「なんやあれ、なんで3本しか足ないんや、なんでここにおる!」
智は頭を動かさずに言う。
「んーあれはタコの幽霊だから気にせんでいいよ」
「タコの幽霊ってなんやし」
「俺幽霊なんて見たことないんやけど」
「俺もや」
智は何も答えず、どうしようもないのでタコパは再開されたが、俺はどうしても気になって天井を度々見てしまう。タコは何度見てもそこにいた。
2つ目のシュレ焼きを口に運ぶ。今度はコーンフレーク。もはや闇パだ。
3つ目はふりかけ。4つ目はウインナー、5個目は……何かの肉だった。
俺はその後も警戒とタコ幽霊の監視を続けたが、結局タコ焼きが当たることはなく、タコ幽霊は天井にずっと居座っていた。
タコパが終わり3人でゲームをしていると、俺の頭上に何か降ってきた。
「突貫、タコ乗っとるよ」
翼の声でこれがタコだと分かった。
剥がそうとするが取れない。
「幽霊に取り憑かれてしまったな」
智は同情の目を俺に向けた。
触って足の数を確認すると3本だった。
何度試しても剥がすことができないので諦めて日が暮れるまでゲームをした。
家に帰った後に鏡を確認するとやはり頭にタコが乗っている。
もう一度剥がしてみるがやっぱり無理だ。
いっそ無視して日常を過ごすことにしようと決めた。
1週間後、相変わらず頭にタコが乗っている。
しかも足が5本に増えていた。これからも足が増えるとなると視界が心配だ。
それにしても最近何をするにも気力がない。
このままでは何かのゲッシュを破ってしまいそうで恐ろしく思う。
翼は最初こそタコを見て笑っていたものの最近は怯えているし、智は学校ですら見かけなくなっている。
これはタコ幽霊の呪いなのだろうか……。