忍者
ここは三重県津市白山町、旧日生学園前だ。私が何故ここにいるかというと、この近くの赤い橋に花が供えられているのを間近で見るためだ。普段このようなところに徒歩で来るのはそれこそ日生の坊主くらいだろう。
道路の隅を歩いて橋の上に立つ。下には森林が広がっており、落ちたらまず助からないだろう。
ふと足元の花に想いを馳せる。これらは誰がために供えられているのだろう?
ここから転落した人のためか?
それとも、坊主たちのために?
まあ前者だろうと思い、空を見上げる。灰色の重い雲が一面を覆っている。
思い立ったが吉日、と急いでやってきたが、この調子では明日に回した方が良かったかもしれない。と考えているうちに雨が降りはじめ、一気に勢いを増した。
傘は持ってきていたが、これでは帰るのが難しくなるだろう。土砂降りの中青山高原(山の中)を歩くのはいい行動とは言えない。
どうすることもできず雨の中ただ突っ立っていると、下の方から物音が聞こえた。
こんなところには滅多に人が来ないはずだ。かといって橋の下に動物がいるとも思えない。
すっかり忘れていたが、そういえばここは心霊スポットだった……。
急に恐ろしくなって咄嗟に逃げようとしたが足が動かない。
物音はどんどん近づいてくる。一体何の霊か。転落者、いやまさか坊主か?
心臓が早鐘を打つ。今にも口から飛び出しそうだ。
目の前に何者かの手が現れ、橋の手すりを掴んだ。
私はその手を引き剥がし谷底へ突き落としてやろうと思ったが、咄嗟のことで体が動かなかったので断念した。
もう片方の手も現れ、同様に手すりを掴む。
私はこの手が小手を装備していることに気付いた。ここに現れるような幽霊が小手を装備するだろうか? 坊主たちは当然そんなことはしない(できない)。
では、目の前にいるのは一体誰だ?
注視していると手すりに両足が掛かり、目の前に黒ずくめの男が現れた。
まさか……この姿は!!
私は辺りを憚らぬ大声で叫んだ。
「忍者!!!!!」
忍者は至近距離で大声を出されたので不機嫌そうな顔をし、
「いきなり何でござるか。目の前で大声で叫ぶとは、迷惑な奴でござるな!」
と言い放った。無礼な奴め。
「雨の中、心霊スポットに現れる方が迷惑だろ」
「それもそうでござるな」
忍者は一瞬納得したようだがすぐに訝しげな顔をした。
「そういうお主も何故ここにいるんでござるか」
「ここに供えられた花を見に来たら雨が降り出したんだよ」
「悪趣味でござるな」
「21世紀になって忍者ごっこしてるお前には言われたくないな。ところであんた、ここで何してたの?」
「暇つぶしでござる」
「とんでもねえやつだ」