ローカル厨二小説

三重県津市の榊原温泉口駅からは巨大なミロのヴィーナスやサモトラケのニケが立ち並ぶ異様な風景を見ることができる。

そこにニケを見上げている一人の少年がいた。

少年はもう暖かい季節だというのにベルトがいくつもある黒いコートに黒いズボン姿で、しかもコートの袖は余り、服に着られているといった感じだった。

彼は夕日が沈むのを一瞥するとまたニケを見上げ、

「時は来たれり……!!」と呟いた。

辺りは田舎なので電車の音と鳥の鳴き声くらいしかなく、彼の声は何にも遮られることなく闇に溶けていった。

ふと足音が聞こえたので少年が後ろを振り向くと少女が立っていた。

少し明るい茶髪をツーサイドアップにして、タートルネックノースリーブのカットソーの上に膝丈のひらひらしたキャミソールワンピを着たその姿はおおよそこのような農村には似つかわしくない雰囲気である。

少女は少年に近づくと、チワワのようにぱっちりした大きな、若干黒目がちの目で少年を捉えた。

「ここで何をしているの? 早くお家にお帰んなさいな」

「それはできない」

「どうして? ……貴方この辺の人じゃないわね。もしかしてお迎えでも待っているの?」

「当たらずとも遠からず、だ。俺たちはここで友と会う約束をしている」

「じゃあ貴方の格好もそのためかしら」

少女は少年の異様な服装を頭から爪先まで見た。

「そうだ」

「そうなの……」

少女は彼のあどけなさを残した顔つきを見て今は似合わなくともそのうち背が伸びて似合うようになるだろうと考えた。しかしそれまで服の趣味が変わらずにいるだろうか?

「まあくれぐれも気をつけなさいね。じゃああたし……」

と少女は言い後ろを振り向くと、そこには背が高く髪の長い、またもや黒ずくめの青年が立っていた。

「きゃあ!?」

少女の驚いた声を気にも留めず、青年は少年の前まで歩いていくと、

「よお、お前が玄武だな?」

と言い、少年も

「無論。この時を待ちわびていた」